「自分のことは自分でやりなさい」
子どもから大人へと成長する過程で、多くの人がこの言葉を言われたことがあるかと思います。
これは、すべてを周りの大人にしてもらっていた「依存」の赤ちゃん時代から、少しずつ「自立」して社会で生きてゆけるようになりなさい、ということ。
社会で生活するためには物質的にも精神的にもある程度の自立は必要で、何でも自分で決めて行動できることは、人生を切り開けるという大きな強みにもなります。
ですが、この自立の精神が強すぎて、何でも自分でやらなければという自分へのプレッシャーになると、途端に人生はハードモードになってしまうのです。
私自身もこのタイプでして(今はだいぶ緩和されましたが^^;)自ら色々なことを抱え込んでしまう性分を、自戒も込めて「私がやらねば症候群」と命名しています。
(あくまで私の個人的な呼び方で、もちろん心理学用語にも医学用語にもこのようなものはありません)
*
人は成長の過程で、子ども時代の安全な居場所から、少しづつ外へ出て挑戦をして「できる」という感覚を得たり、時には失敗をしてそれを乗り越える…という経験を積み重ねます。
そのようにして、精神的には自己信頼を育て、具体的な生きるためのスキルも増やしてゆくのです。
(逆に言えば、このような健全な発達のための環境がなかった場合に、何かしら生きづらさの問題を抱えやすくなるともいえます)
そしてその中で、家族以外の他人とも関わり、群れの中で生きる方法も学びます。
家の中では一番小さな存在が優先されますが、お友達と関わるようになればそうもいかなくなりますよね。自分を主張したり譲ったり、時には何かをお願いすることも必要になります。その中で試行錯誤し、他人との関わり方を習得するのです。
大人になること=自立することではあるのですが、同時に、社会という群れの中で生きるために、お互いに助け合い、不足を補う方法を学ぶことでもあるんですね。1人で何でも抱え込んでしまって辛い場合には、そのスキルを育てる、ということにチャレンジしても良いかもしれません。
人に頼るの苦手な方は、小さな頃から周りの大人(主に親などの家族)を安心して頼れない環境だった、ということも多いです。
幼少期に「人は自分を助けてくれるもの、あてにしても良い」という根っこが作られないと、大人になっても周りを「助けてくれない人」だと感じやすく「頼る」ということが難しくなってしまうのです。
※これは、親が悪い人だったということではなく、さまざまな理由で結果として子どもにそのような安心できる環境を与えられなかったということです。
*
「私がやらねば症候群」に傾きやすい方は、色々なことをこなすスキルが高めの方も多く、だからこそ余計に周りからも頼られて頑張りすぎてしまうのかもしれません。
ただ、そのわりに自分のことを少し低く見積もっていて、周りからの評価と自分の評価にズレがあることも多いと感じます。
本人は「自分はダメだ」と思っているけれど、周りからは充分できていると思われている、ということはよくあります。
また一方で、1人で色々できてしまうがゆえに「自分はあてにできるけど、自分以外は信用できない」と思い込んでしまう、“自立の罠”にハマることもあります。
そのような状態が続くと、周りの人を役立たずだと認定し、心的に分離して「人はいるけどいつも心は一人ぼっち」、そんな感覚にも陥りやすいのです。
せっかくの「色々なことができる」という素晴らしい長所が周りとの壁になるなんて、もったいないですよね…。
では、もし今、そのような状態が当てはまる場合には、どうすれば良いのでしょうか。
*
その1:それは本当に自分にしかできないこと?
社会で多くの人と関わり役割が増えるほど、やることや考えることは増えていきます。
ですから、何を「自分のやること」だと認定するのか、そのような「切り分け」が大切です。
例えば私の場合。仕事、家事や家のこと、育児や子どもの学校のこと、親戚やご近所のお付き合い…などがあるのですが、それらを全部1人でこなそうとすると、当然パンクしてしまいます。
(以前の私はまさにパンクして壊れかけました…笑)
ですから、本当に自分しかできないことなのか…?そう思い込んでるだけではないか……?とよくよく確認してみてくださいね。
その2:切り分けたことを周りの人にお願いする
自分以外でもできることがあった場合、それを相手が受け取りやすい言葉や行動で(←ここが大事です!)お願いすることが必要になります。
家事育児・介護などの場合は世の中にあるサービスを頼るという方法もあるかもしれません。
先ほどの私の場合には、夫、職場の人や友人、時には子ども、などにお願いするわけです。
しかし、です。
1人で抱え込みやすい方は、「お願い」の苦手な方がとっても多いです。
先ほどの「このくらいもできない自分はダメだ」、もしくは「自分以外はあてにできない」という思いを持っていることが多く、「お願い」のハードルがとても高いんですね。
ですから、なぜ自分はお願いすることに抵抗があるのだろう?と考えてみて、そのハードルを切り崩すことが必要になります。
「相手を頼ったら迷惑だと思われる、何でもできる自分じゃないと受け入れられない」、そう感じる気持ちが強い場合。
「自分には助けられる価値がある、大切にされる価値がある」、そのよう自己イメージを捉え直すことが必要かと思います。
時にはカウンセリングなども使っていただき、周りの人のことも「私を助けたい人なんだ」と感じられると、お願いが怖くなくなります。
「自分以外にはろくな人がいない、あてにできない」、そう感じる気持ちが強い場合。
行動レベルでは、その「あてにできない人」とコミュニケーションと取ることで改善したり、助けを求める人の範囲を広げてみるというのも選択の一つです。(これを面倒に思って自分で抱えこむ方も多いのですが)
また心理的には、自分の世界観を変えるためにもう一度、周りの人からの優しさや思いやりや愛を受け取り直すことも有効です。「自分がどれだけ周りに気遣われているかを“思い知る”」ということなので、ものすご〜く嫌な作業ですが…。
ちなみに。
お願いをする時には、誰を選ぶかと、その相手が受けるか断るかの選択権を残すことも大切です。
相手にも事情や都合があるので「断られた=裏切られた」と傷ついてしまうと、お互いに良い結果にはなりません。
*
やることが山積みでしんどい、だけど自分でやらねば。
その思いは強くなればなるほど、どんどん自分を追い詰めて、いつか限界が来てしまいます。
誰しもスーパーマンではないので、1人の人間が抱え込める量には限りがあるのです。
私自身も、何だかいっぱいいっぱいだと感じた時は、この「自分がやらねば症候群」にかかっていないかを確認するようにしています。
そして。
できることならすべて自分でやった方が良いのかというと、そんなこともありません。
やればできるけど、今回はお願いしようかな…だってOKなんです。
他の人の手を借りることで、自分の発想にはない良いアイディアをもらったり、新しいやり方に出会えるという恩恵も多いように思います。
自分でやってもいい、人にお願いしてもいい、どっちもアリ。
しんどい時にはそんな風に、少しだけ肩の力を抜いて、緩んでみてくださいね。